Camptocormia(腰曲がり)は,パーキンソニズム(パーキンソン病や多系統萎縮症)において少なからず報告されている.詳細は過去の記事も参照していただきたいが,腰曲がりの角度は,通常のパーキンソン病症例で認められるものより大きく,歩行などのADLへの影響も目立つ.治療法の確立が望まれる神経症状である.
今回,本邦のパーキンソン病症例におけるcamptocormiaの合併頻度,および臨床的特徴を検討した多施設共同研究が報告されたので紹介したい.これまでパーキンソン病の多数例を対象とした疫学調査は乏しく(*),貴重な報告である.
*海外の報告で,3%〜12.7%との報告はあるそうだが,報告によりばらつきがあるのはcamptocormiaの定義の差も影響していると考えられる.
方法としては,慶応パーキンソン病データベース(Keio PD database)に,2009年から2010年にかけて登録されたパーキンソン病患者を対象とした.camptocormiaの定義は,立位や歩行時における胸腰椎の前屈が45°以上で,臥位になると消失するものとした.性別,発症年齢,罹病期間,重症度,内服量(すべての抗パーキンソン剤のL-DOPA換算量,L-DOPA量,ドパミン作動薬量),内服期間,非運動症状の数,運動合併症,自律神経症状,REM睡眠行動障害,認知症等の有無である.
さて結果であるが,対象は531名(男性255名,女性276名)で,発症年齢は64.8±10.2歳,罹病期間は7.0±5.5年であった.問題のcamptocormiaは22名(4.1%)で認められた.前屈の角度は80°まで認められ,camptocormiaを認める症例の平均は58.3±15.2°であった.Camptocormiaはパーキンソン病の発症後,6.2±5.2年で出現していた.4例では脊椎の手術の既往あり.1例でのみL-DOPA内服が有効で,残りの症例は内服治療が無効であった.
次にcamptocormiaの合併を認める症例と認めない症例に関して,上述の評価項目を比較した.この結果,有意差を認めたのは,年齢(76歳vs 71歳),罹病期間(8.4年vs 6.9年)運動症状が重症であることで(UPDRS-IIIスコア 17.4 vs 11.3),かつ抗パーキンソン剤内服総量(561.0 mg vs 415.0 mg)とL-DOPA内服量(454.5 mg vs 328.2 mg)も多かった.また自律神経症状のなかで重症の便秘と尿失禁の頻度も有意に高かった.
さらにcamptocormiaの重症度による臨床像の比較も行なった.つまり角度が45〜60°の群(11名)とそれより高度な群(11名)を比較している.高度群では運動症状(Yahr分類,UPDRS-IIIスコア)がより重症であったが,その他については有意差を認めなかった.つまりcamptocormiaの重症度は年齢や罹病期間,内服量とは無関係である可能性が示唆された.
以上より,camptocormiaは頻度の高い神経症候ではないこと,また臨床的特徴として,重症の運動症状と多いL-DOPA内服量が認められた.この2点については想像に難くはないが,自律神経症状の合併頻度が高いことが明らかになった点は興味深く,治療やケアを考える上で重要である.治療については抗パーキンソン剤の効果は乏しく,camptocormiaの機序としてドパミン系以外機序の関与が示唆された.
Mov Disord 26; 2567-2571, 2011![]()
今回,本邦のパーキンソン病症例におけるcamptocormiaの合併頻度,および臨床的特徴を検討した多施設共同研究が報告されたので紹介したい.これまでパーキンソン病の多数例を対象とした疫学調査は乏しく(*),貴重な報告である.
*海外の報告で,3%〜12.7%との報告はあるそうだが,報告によりばらつきがあるのはcamptocormiaの定義の差も影響していると考えられる.
方法としては,慶応パーキンソン病データベース(Keio PD database)に,2009年から2010年にかけて登録されたパーキンソン病患者を対象とした.camptocormiaの定義は,立位や歩行時における胸腰椎の前屈が45°以上で,臥位になると消失するものとした.性別,発症年齢,罹病期間,重症度,内服量(すべての抗パーキンソン剤のL-DOPA換算量,L-DOPA量,ドパミン作動薬量),内服期間,非運動症状の数,運動合併症,自律神経症状,REM睡眠行動障害,認知症等の有無である.
さて結果であるが,対象は531名(男性255名,女性276名)で,発症年齢は64.8±10.2歳,罹病期間は7.0±5.5年であった.問題のcamptocormiaは22名(4.1%)で認められた.前屈の角度は80°まで認められ,camptocormiaを認める症例の平均は58.3±15.2°であった.Camptocormiaはパーキンソン病の発症後,6.2±5.2年で出現していた.4例では脊椎の手術の既往あり.1例でのみL-DOPA内服が有効で,残りの症例は内服治療が無効であった.
次にcamptocormiaの合併を認める症例と認めない症例に関して,上述の評価項目を比較した.この結果,有意差を認めたのは,年齢(76歳vs 71歳),罹病期間(8.4年vs 6.9年)運動症状が重症であることで(UPDRS-IIIスコア 17.4 vs 11.3),かつ抗パーキンソン剤内服総量(561.0 mg vs 415.0 mg)とL-DOPA内服量(454.5 mg vs 328.2 mg)も多かった.また自律神経症状のなかで重症の便秘と尿失禁の頻度も有意に高かった.
さらにcamptocormiaの重症度による臨床像の比較も行なった.つまり角度が45〜60°の群(11名)とそれより高度な群(11名)を比較している.高度群では運動症状(Yahr分類,UPDRS-IIIスコア)がより重症であったが,その他については有意差を認めなかった.つまりcamptocormiaの重症度は年齢や罹病期間,内服量とは無関係である可能性が示唆された.
以上より,camptocormiaは頻度の高い神経症候ではないこと,また臨床的特徴として,重症の運動症状と多いL-DOPA内服量が認められた.この2点については想像に難くはないが,自律神経症状の合併頻度が高いことが明らかになった点は興味深く,治療やケアを考える上で重要である.治療については抗パーキンソン剤の効果は乏しく,camptocormiaの機序としてドパミン系以外機序の関与が示唆された.
Mov Disord 26; 2567-2571, 2011
